大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和60年(ラ)616号 決定 1986年1月31日

抗告人 松留謙夫

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は別紙「抗告状」記載のとおりであり、その理由の要旨は、①債権者の本件土地に対する抵当権(第一の抵当権)は当初から被担保債権が存在しない無効なものであり、仮にそうでなくても、本件建物に対する抵当権(第二の抵当権)の設定によって第一の抵当権は消滅した、②第一の抵当権に基づく本件土地に対する競売と第二の抵当権に基づく本件建物に対する競売が一括して申立てられ、裁判所もこれを一括して競売開始決定をなしているが、右決定は第一、第二の各抵当権の被担保債権及び請求債権を各別に明示していないから違法であり、右決定を前提とする本件売却許可決定には民事執行法七一条一号に該当する事由がある、というのである。

二  そこで判断するに、

1  担保権の実行としての競売手続においては、担保権の不存在ないし消滅を理由とする債務者(所有者)の不服申立ては不動産競売開始決定に対する異議(民事執行法一八二条)によるべきものであり、売却許可決定後にこれに対して担保権が存在しないことを理由として執行抗告の申立てをすることは許されないものと解するのが相当である。したがって抗告人の抗告の理由①は適法な執行抗告の理由には当らない。

2  一件記録及び抗告人提出の資料によれば、

第一の抵当権は昭和五二年三月一六日付けの日本住宅公団と債務者音羽建設株式会社との間の「施設付住宅譲渡契約」に基づく割賦金債権(六億二〇六一万三〇〇〇円)を被担保債権とするものであること、第二の抵当権は第一の抵当権と同様に右施設付住宅譲渡契約に基づく割賦金債権を被担保債権とするものであるが、昭和五三年八月一日日本住宅公団と債務者音羽建設株式会社との間で右割賦金債権額を五億九六一六万三一二〇円と確定する旨合意したので、第二の抵当権の被担保債権の金額は第一の抵当権の被担保債権額よりも減額され前記五億九六一六万三一二〇円とされたこと、日本住宅公団から第一、第二の抵当権を承継した債権者住宅都市整備公団は第一、第二の抵当権に基づく競売申立を一括してなし、執行裁判所もこれを一括して不動産競売開始決定をなしたこと及び右決定において被担保債権及び請求債権を第一、第二の抵当権毎に各別に表示せず一括して表示していることが認められる。

右事実によれば、第一、第二の抵当権は被担保債権額を異にするも、担保する債権は同一の施設付住宅譲渡契約に基づく割賦金債権であるから、執行裁判所の不動産競売開始決定のように第一、第二の抵当権毎に各別に請求債権を明記していないとしても、請求債権の特定、担保物件との対応について欠けるところはない。したがって、執行裁判所の不動産競売開始決定の請求債権の表示に不備はなく、右決定に違法な点は存しないし、右決定に第一、第二の抵当権毎に各別に請求債権が明記されていないことをもって民事執行法七一条一号に該当する事由とすることができないことはいうまでもない。

三  以上のとおり、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 柳川俊一 裁判官 三宅純一 林醇)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例